TSUKIMI計画は、テラヘルツ波センサを用いた広域月面探査(以下、テラヘルツセンシング)により、地下数十cmまでの水氷や金属資源の分布・存在量の把握に役立つ情報取得を主目的としています。テラヘルツセンシングでは、地下数十cmまでの輝度温度と誘電率を取得可能であり、これらの情報から地下の資源分布・存在量の決定を目指します。特に、近い将来大規模な開発が見込まれる月面において、利用が期待される有用物の空間分布をいち早く調査し、将来のビジネスに向けた基盤を構築すること、月表層部の物理的・化学的不均質性を明らかにすることで月面表面を覆うレゴリスの物理化学的進化に関する知見を得ることがTSUKIMI計画の目標です。
TSUKIMI計画の中心は、SMILESで実績のあるテラヘルツ帯での放射エネルギーの受信装置で、受動的に高精度で輝度温度を観測すると同時に、偏波観測も行うことで地下数十cmまでの平均誘電率の推定を予定しています。誘電率の値のみから、直接的に化学組成が求まることはありませんが、周囲と比較し誘電率の局所的なアノマリーを検出することができるため、結果的に水氷や金属資源の定量に重要な役割を持つと考えられます。これをもとに月広域での資源マップを作り、将来的なその場での資源利用(ISRU)への貢献を目指しています。
近い将来大規模な開発が見込まれる月面において、利用が期待される有用物の空間分布をいち早く調査することで、将来のビジネスに向けた基盤を構築することが、本計画の重要な目的です。ここ重要なのは地下深部に有用物が存在していても、それは資源とは呼べない点です。過去の月面や火星での掘削実験の困難/失敗を考えると、月面において深部まで掘削して有用物を入手することは考えにくく、逆に表面付近に存在する有用物をなるべく掘削せずに手に入れる方がエネルギー的に優位であると考えられます。そのためTSUKIMI計画では、現実的に掘削/切削可能であるのがせいぜい20-30cm程度であることを考慮し、この程度の深度までの物質分布に関する情報に絞ることが重要であると考えています。
TSUKIMIミッションは、ビジネス、サイエンスの2つの側面の目的を持ちます。
ビジネス目標:近い将来大規模な開発が見込まれる月面において、利用が期待される有用物の空間分布をいち早く調査し、将来のビジネスに向けた基盤を構築すること
サイエンス目標:月表層部の物理的・化学的不均質性を明らかにすることで、月面表面を覆うレゴリスの物理化学的進化に関する知見を得ること
これらの目標を達成するために、我々は以下のようなビジネス・サイエンス目的を定めました。
1. 月面で利用が期待される有用物の空間分布を調査する
1.1 月開発の初期の段階で利用が期待される領域について、氷等エネルギーが利用できる可能性の高い有望領域を明らかにする
1.2 月開発の初期の段階で利用が期待できる領域について、レゴリスの化学的不均質性が存在するか明らかにする
2. 月面開発につながる月レゴリスの物理化学的知見を得る
2.1 月開発の初期の段階で利用が期待される領域の温度分布を把握する
2.2 月開発の初期の段階で利用が期待される領域の機械的特性に関する知見を得る
これらを達成することにより、月面を利用した将来のビジネス基盤の構築・月表層の物理化学的進化の解明を目指しています。
以上の目的を達成するには、工学・理学双方からの検討が必要です。そこで、国内の研究機関・大学・民間企業が集結し、以下のような研究チームを結成しました。これらのPI組織に加え、国内外から研究者・実務者・学生などが加わり、月資源コンソーシアムと密接に関連しながら開発を進めています。
代表研究責任者(PI):笠井康子(NICT)
研究分担者:宮本英昭(東京大学)
研究分担者:前澤裕之(大阪公立大学)
研究分担者:西堀俊幸(JAXA)
研究分担者:寺田卓馬(Space-BD)